2012年9月9日日曜日

京都の景色から考える、現代の建材の色

もう少し、京都の景色から考えたことをまとめておきたいと思います。

近年、集合・戸建に係らず、住宅の(アルミ)サッシの色をどうするかということを検討する際、黒や濃茶等の濃色を選ぶことに躊躇される方が多く、濃色を提案しても採用されない場合が数件ありました。

それにはいくつかの理由が考えられます。
  1. 外装・内装色が総じて高明度化しており、明るい基調色に対し線的に出現する濃色が対比的に感じられるため
  2.  白基調(特に壁)のインテリアに対し、濃色のサッシ(フレーム)が室内の開放感の妨げになる、と懸念されるため
  3.  濃色を使ったことが無い・最近はあまり濃色を使わない等、近年の傾向に抵抗することへの不安感
設計者や事業主と話をしていると、濃色のサッシや手摺が却下される要因としては上記の3点が大きな割合を締めている、と感じます。もちろん、建築物の規模や意匠により、ステンカラー・アルマイトなどの明るい色調がふさわしい場合もありますし、濃色・淡色どちらでもバッチリ決まる、という場合もあります。

詩仙堂。濃色の柱越しに明るい庭を見ると、やはり外の景色の方が印象的に移ります。
夏の陽射しに照らされる詩仙堂の庭園を見ていたら、ふと外の景色だけを見ていることに気がつきました。初めは室内のつくりや天井の高さなどに気が行っていましたが、畳に腰を下ろすとやはり外の景色に目が行き、室内の装飾や柱の存在感はどんどん薄れて行きました。

もちろん、この景色をそのまま現代に当てはめることは出来ませんが、少なくとも『濃色のサッシが室内の開放感の妨げになる』ということは払拭できるのではないか、と感じます。

外装の白と同じように、とにかく明るく・白っぽいものの方が存在感を消すことが出来る、という考え方はやや乱暴であり、明るさの見え方・感じ方は周辺の色や照明の具合など、他の要素との関係性によって決定付けられますから、一つの部材を検討する際も単に時代の傾向や慣習に頼りすぎることなく、常にその環境・空間の状態を推測・検証し選定にあたるべきだと思っています。

庭園に用いられる白系の砂利は、反射光を室内に取り込むため、という記述を以前読んだことがあります
現在、室内の明るさ(照明)環境は数十年前と比較しても大きく変貌を(明るい方向に)遂げている、と思います。京都の寺院を巡っていると、昼間でも本当に暗い場所がたくさんありました。でも長くその場にいると徐々に慣れてきて、ほの暗い中で見る木の柱の質感や障子越しの柔らかな陽射し、鈍く光る襖の金箔等、暗さがもたらす趣や時間の変化の豊かさを味わうことが出来ました。

ほの暗い室内に居ると、視覚的な情報量が減少する分、ちょっとした風で庭の木々が触れあう音、どこかで焚かれている香のかおりなど、五感が心地よく刺激される、という感覚を体験しました。

東福寺。石のテクスチャーの違いによる灰色の濃淡。
同じく東福寺。しっとりとした艶のある灰色。
東福寺、方丈南庭の際。灰色によるコンポジション。
そしてもう一つ印象的だったのが、石材の様々な表情です。普段から素材には注視しているつもりですが、日本庭園を眺めていて改めて灰色の階調の豊かさに目を奪われました。東福寺、龍安寺、詩仙堂…。いずれも観光パンフレットなどに掲載されている写真は紅葉時期のもので、主役は四季の彩りであることが明確です。

でも実際に訪れてみると、瓦の色むらや苔生す石、大判の石材と砂利のスケールの対比等、実に細やかで、自然に同調するような微細な変化が感じられ、周辺は夏の緑一色でしたが決して見飽きることはありませんでした。もちろん紅葉時期もより一層、素晴らしい景色が眺められることでしょう。

東福寺の方丈庭園。思ったよりもこじんまりしたスケール感、苔のボリューム。訪れてみないとわからないことは多くあります。
庭園は造られた自然であり、そういった意味で寺院は建築物と庭園が一体的にデザインされている(内と外の見る・見られるの関係)のだと思います。近代になり自然素材以外の建材が数多く出現し、選択の可能性が広がったことから、内部・外部のデザインがそれぞれに多様化していった、という変遷もまちなみに大きな影響を与えています。

部材の色を決める場合、様々な条件を自身で設定しますが、もっと時間を遡ってそのあり様を考えてみることも必要なのではないか、と常々考えています。単に和風・洋風といったスタイルにとらわれず、長く自然環境と付き合ってきた先人達の知恵や経験を生かすべき部分が、数多くあるはずだと思うのです。

新しい建材は機能に優れていて、多く使われるほどに求めやすいコストになって行くなど、よい面が多くあり、そうした進化を否定するつもりは全くありません。ただ、その選定においては選ぶ側にも多大な責任があり、一つの部材が景色までを変えてしまう可能性もあるのだ、ということを今まで以上に意識していきたいと思いました。

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂