2013年1月31日木曜日

建築学生からの質問に答えてみました-その1


あっという間に1月も終わりとなりました。この時期になると既に新年度のスケジュール調整等が始まり、春が近いことが少しずつ感じられるようになります。
今月は非常勤をしている静岡文化芸術大学の講義と演習が週1×3週、その間に立命館大学の学生が企画してくれたレクチャーで建築と色彩をテーマに話をするという機会もあり、いつも以上に“環境色彩デザインの世界を伝える”ということと向き合った一カ月でした。

立命館大学でのレクチャーは卒計の提出時期だったにも係わらず、35名程の学生・院生と社会人の方々が集まって下さいました。レクチャーを企画してくれた博士課程の方が事前にアンケートも行ってくれており、色彩に興味があるか・設計の課題に積極的に取り入れているか等、参加して下さった方々が知りたいポイントがしっかり絞り込まれていました。おまけに以下のような質問も既に用意されており、出来るだけレクチャーの中でその点にも触れながら話をしたのですが、ひとつひとつの質問には充分答えきれませんでしたので、ここで少しずつ質問と共に紹介していきたいと思います。

質問のいくつかは実務に携わる設計者にとっては当たり前のことかも知れませんが、色彩デザインという分野を初めて知った・あるいは興味がある、という若い方にとっては至極素朴な疑問であり、日々の製作の中で困っていることなのだろうなあ、という印象を持ちました。
文章だけで細かなニュアンスを伝えることは難しいのですが、せっかく興味を持って頂いたので、これからもその興味をよりよい環境の形成のために役立てて行って欲しいなと思っています。

●質問1 系統の異なる色を使う時に、うまく統一感を出す方法は?
建築や土木デザイン等で最も統一感(調和した印象)を表現するためには、色相(色み)調和が基本だと考えています。10YR(じゅうわいあーる)という色相でいうとYR(イエローレッド)色の純色に白・黒を加えた濃淡の快調でまとめる配色です。これは単体でも群でも応用が効きます。


色彩学には配色調和論という論理があります。
まずは色相の対比を強調する2色・3色・4色調和(対照の調和)等、そして明度と彩度を合わせたトーンという概念を用いたトーン調和(同系の調和)、色相・トーンが類似した色を組み合わせた類似色調和の3つが一般的です。
上記はデザイン分野全般に展開されるため、グラフィック・ファッションをはじめとする商品計画やwebデザイン等にも応用されています。

ところが建築や土木デザイン等の分野には対象となる建築・工作物の規模、周辺の様々なものに影響を受けたり与えたりという特殊性があり、単体で対照(変化の面白さ)を表現しようとすると周囲から浮いてしまいがちです。

また、様々な対象物には“慣用色”というものがあり、建築でいうと長い歴史を持つ木造建築の自然素材の色やしっくい・土壁・灰色の瓦・自然石等、ごく低彩度の暖色系や白・灰といったニュートラル系の色(素材)がそれに該当します。現代ではこうした歴史的な建築物が群として見られるまちなみは少なくなっていますが、新しい建材(タイルや塗料・サイディング等)の素材感や色は日本の伝統的な建材に近づくようつくられたものが多く、基本は暖色系の低彩度色です。

もう一つは基調・補助・強調という面積比とのバランスです。例えば基調色と補助色(全体の8割以上)をYR(イエローレッド)系でまとめ、1階の開口部(扉)や庇等面積の小さな部分にダークグリーンやダークブルー等を配した洒落た建物を都心でも良く見かけるようになりました。基調が整っていれば系統の異なる色(ここでは色相、と捉えています)が加わっても、全体の調和感は崩れにくいと考えています。更には、その強調色の使い方が両隣の建物と揃っていたりすると、より統一感のある印象をつくることが出来るのではないでしょうか。


●質問2 合う色の条件は?
何に対して合う、というかによって答えは随分変わるような気がしますが、とりあえず配色として合う・合わない、という意味だと解釈して書いてみます。調和については上記に示した通り、“いくつかの型”があります。屋外環境の場合は
①  色相調和型
②  類似色相調和型
③  トーン調和型
の順に、調和した印象(合う)を感じやすく、周囲が多少混乱した環境であっても、単体でまとまりを強化していた方がその影響を受けにくい、と考えることが出来ます。

まずはこの調和の型(種類)の内容を理解し、まちを歩いて建築物や広告等を見る際にこの調和の型のどれに当てはまるか、を考えてみるのは手軽で良い訓練になると思います。色という切り口で見た時、何か違和感を持ったり良い印象が見当たらなかったりする時は、色彩的な調和が形成されていない、ということになります。

●質問3 誘目性の高い色とは?
誘目性とは単に目立つ・目立たないという観点だけではなく、人の目を引き付ける度合いを意味します。例えば広告で派手な配色を使った看板にも目を惹かれますが、見る人がその時興味を持っているもの、例えば車の写真や美味しそうなステーキの写真につい目が行ってしまう…。これが誘目性です。

色においては一般に赤・黄赤・黄といった暖色系は誘目性が高く、青・紫といった寒色系は低いという特性があります。交通標識などでは視認性・誘目性共に高い配色が展開されており、伝えたい情報の優先順位の高い(危険・注意)ものほど、赤や黄等の暖色系高彩度色が多く用いられています。

こうした色自体が持つ特性を理解しておくと、例えば奥行き感を出したい時に誘目性の高い色を後方に用いても効果的でない、という仮説を立てることが出来ます。もちろん、これも基調となる色の色相や空間的なスケールとの関係性によりますので、仮説を立てた上で、証明していくという検証が不可欠です。

●絶対NGな色の組み合わせを知りたい
これも対象により、という前提条件が付きますが、建築の学生からの質問ですので建築外装において、と解釈して書いてみます(このあたりが文章で対応することの難しさ、ですね)。
自身はNGな組み合わせだと感じるのは、具体的に赤と青、などのことではなく、『対象となる建築物の地域性・用途・規模・形態・周辺との関係性、更には見る人に与える心理的な影響…等々の要件にそぐわない配色』と定義しています。上記の配色調和論で考えると、例えば対比の強い補色(例えば赤と緑)も“対照の調和”の範疇です。

そうした“見慣れない配色”“奇抜さ”等も、場所や規模、更にその建築物が持つ目的、素材感等によっては、素晴らしい建築として存在する可能性はゼロではない、と考えています。
要は単に配色の善し悪しの問題ではなく、対象(の持つ特性や要件)にふさわしいか否か、という判断をすることだと思うのです。

とはいえ、通常の業務の中では上記の建築物における慣用色や地域が持っている色を基本としていますし、建築物や工作物が持つ公共性を考えるとそうそう斬新な配色や(良い意味で)誰もがハッとするような配色というのは相応の理由(そうすることの必要性)が不可欠です。
繰り返しになりますが、それでもどのような配色も可能性はゼロではない、と考えていた方が、創造の幅は豊かに育つのではないでしょうか。

ちなみに建築ではありませんが、最近自身がハッとした配色は、この3月にデビューするスーパーこまちのJAPAN REDです。
評価は様々だと思いますが、コンセプトがしっかりしているので今までにない配色も新鮮な驚きと好感を持って受け入れられるのではないか、と感じました。

…と、4つの質問だけで相当長くなってきました。以降、答えに窮するものもありますが、自身の経験の範囲で、出来る限りわかりやすく答えて行きたいと思います。



【事前アンケートに記載されていた質問】 ※言い回し等、そのまま転載しています。
◎色の決定・選び方
・プロジェクト等で色を決定する時、何を大切にして色を決めたり、デザインを行っていますか?
・系統の異なる色を使う時に、うまく統一感を出す方法は?
・合う色の条件は?
・誘目性の高い色とは?(コントラストに頼らない)
・絶対NGな色の組み合わせを知りたい

◎色と時間・白い壁
・白い建築はまめに塗り直したりして白を維持しているんですか?ホワイトボックスが2030年経った時にどんな表情になるのか気になります。
・建築の色の時間変化について
・時間経過が想像できない。派手な色にチャレンジできない。

◎色と心理
・カラーセラピーみたいな色で人間の気持、感情ってコントロールできるんですか?
・感情に与える影響(赤→怒、青→悲など)

◎プレゼンに使う色
・鉛筆画のスケッチはうまく描けるが、色を塗ると台無しになることが多々ある
・CG空間で色別に反射率を求める方法を知りたい
・カラーカードで判別した色をRGB値に変換する方法を知りたい
・プレゼンに効果的な色の組み合わせ方

◎その他
・国によって建築の色の映え方が違うのはなぜですか?
・色を含めた様々なものに対するセンスが無いのが悩み

2013年1月6日日曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学②-失敗がない色の選び方(単色編)


失敗がないというか、失敗したと思ってもそのことに気付かれにくい色選び、と言ったほうがいいかも知れません。
2013年最初の色彩学は、“一発勝負の時の心構え”について、昨年末の経験からまとめてみました。

塗装の場合、色選びは時間にゆとりがありさえすれば、見本をつくって実際の見え方を確認することが出来ますから、実際に使用する塗料を用いて濃淡や艶の度合い等、異なる見本を数種用意し、比較検証の上、決定色を選定することが最も望ましい方法です。

ところが長く仕事をしていると、稀に一発勝負をしなければならない事態に遭遇します(他の部位の素材や色が決まっていて、それと同色にする等の場合は別として)。そのような時に適切な判断が出来ないと、多くの方に迷惑がかかりますし、現場の工程やコストに大きく影響を与えてしまいます。

そういう時には失敗したくないなあ、と思うものです。長く仕事をしていても、ぎりぎりまで『どこまで攻めていいか』と思うことはよくあります。無難と品よく馴染んでいることの境界。あるいは、際立っていることと浮いてしまっていることの境界。

空間を構成する要素の中の一つ要素だけで判断できる事ではないので、どちらに転ぶか、実際にその環境が具現化するまではわかりませんが、そうした条件を踏まえた上での一つの考え方です。

塗装で一番難しいのは、色の印象に最も影響の大きい彩度(鮮やかさ)のコントロールです。
いわゆる発色の善し悪し、です。ちょっとの色気で、雰囲気が変わってしまいますので、ビビッドな色や微妙なニュアンスのある中彩度色などは、やはり見本確認が欠かせません。

つまりそういう時間的・予算的余裕が無い時の逃げ道は、『彩度をギリギリまで控える』ことになります。
鮮やかさで失敗すると手当のしようがありませんが、地味での失敗は『馴染ませていますが、何か?』と言うことが出来ます(当社比)。

二番目は色相(色あい)で、ちょっと赤みを抜くとか、黄味に寄せるとか。
色あいの判定は比較対象が無いとわかりづらいので、建築を長くやっている人でも『この塗装とタイルは色相がずれていますよ』と言っても通じないことが多くあります。
塗装の職人さんには伝わりますが、塗料メーカーの営業の人には理解できない人が多かったりします。

例えば黄赤系のオフホワイトは、塗装色の中では最も一般的ですから、色調合に慣れた人(=メーカーの工場の方や職人)であれば色相を見誤る心配が少ない色です。再現しやすい色を把握しておく、ということも重要な要素です。

指定した色を再現してもらう際、再現する人の目・手による誤差を、どれだけ小さく出来るか。これは以前グラフィックデザイナーの原研哉さんからもお話を伺ったことがありますが、どの分野にもある程度共通する考え方だと思います。

具体の方法としては、ズバリを想定した場合、そのズバリ色に対して
『色相(色あい)は赤の方向、黄の方向(あるいは緑の方向、紫の方向等)、どちら寄りが好ましいか』
『明度(明るさ)の上限・下限は』
『彩度(鮮やかさ)の上限・下限は』

を指示することで、『ここまでだったらズレは許容出来る=ストライクゾーン』を設定してあげる、というやり方です。

例えば“明るいベージュ”を選定する際、選ぶ側にも見る側にも、ものすごく幅があるはずです。
その状況下で、自身が理想とする色は確かにあるのですが、それは何というか、物体の色そのもののことだけではなくて、その物体があることでつくりだされる状態を、どうすれば構築出来るか、が重要です。

形や質感との合性とか、その場の陰影の具合とか。色の見え方はその場の状況に左右されますから、(色の)『転び方』さえ把握していれば、ある程度の幅の中で決めて全然問題ないと思っています。
むしろ選定の際『絶対にこの色でなければならない』ことなど、ほぼ存在しないと考えることも出来ます(生産・商品管理の色再現は別として)。

許容範囲を決めるところまでは相当気を使いますが、実際の色合わせは(ズレが大きすぎなければ)許容してしまった方が良い、くらいに思っています。

…とはいえ、一発勝負の色合わせはひとえに職人さんの手と目にかかっているので、毎回緊張します。そうした経験も含めて、自分の中にデータを客観的に数値化して蓄積していくことがとても大切だと考えています。他での成功が、ここで通用するかはもちろんわかりませんが、経験の良いところは上限・加減の“見当”がつくようになることではないでしょうか。

一発勝負ならば賭けに出る、という方法ももちろんあるでしょう。あるいは、常にニュートラルな白にしておけば間違いない、という考え方もあるかも知れません。ですが、塗装の良い点はかなり微細な色調整が可能だという所にありますから、その利点を生かして徐々に段階を踏んでいくという訓練も悪くないのでは、と思っています。

ちなみに、今回は1色を選ぶ際のポイントについて書いていますが、複数色を選ぶ際はそれぞれの差異の設定の仕方にまた別の注意が必要です。それについては、また次回。

自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂