2013年1月6日日曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学②-失敗がない色の選び方(単色編)


失敗がないというか、失敗したと思ってもそのことに気付かれにくい色選び、と言ったほうがいいかも知れません。
2013年最初の色彩学は、“一発勝負の時の心構え”について、昨年末の経験からまとめてみました。

塗装の場合、色選びは時間にゆとりがありさえすれば、見本をつくって実際の見え方を確認することが出来ますから、実際に使用する塗料を用いて濃淡や艶の度合い等、異なる見本を数種用意し、比較検証の上、決定色を選定することが最も望ましい方法です。

ところが長く仕事をしていると、稀に一発勝負をしなければならない事態に遭遇します(他の部位の素材や色が決まっていて、それと同色にする等の場合は別として)。そのような時に適切な判断が出来ないと、多くの方に迷惑がかかりますし、現場の工程やコストに大きく影響を与えてしまいます。

そういう時には失敗したくないなあ、と思うものです。長く仕事をしていても、ぎりぎりまで『どこまで攻めていいか』と思うことはよくあります。無難と品よく馴染んでいることの境界。あるいは、際立っていることと浮いてしまっていることの境界。

空間を構成する要素の中の一つ要素だけで判断できる事ではないので、どちらに転ぶか、実際にその環境が具現化するまではわかりませんが、そうした条件を踏まえた上での一つの考え方です。

塗装で一番難しいのは、色の印象に最も影響の大きい彩度(鮮やかさ)のコントロールです。
いわゆる発色の善し悪し、です。ちょっとの色気で、雰囲気が変わってしまいますので、ビビッドな色や微妙なニュアンスのある中彩度色などは、やはり見本確認が欠かせません。

つまりそういう時間的・予算的余裕が無い時の逃げ道は、『彩度をギリギリまで控える』ことになります。
鮮やかさで失敗すると手当のしようがありませんが、地味での失敗は『馴染ませていますが、何か?』と言うことが出来ます(当社比)。

二番目は色相(色あい)で、ちょっと赤みを抜くとか、黄味に寄せるとか。
色あいの判定は比較対象が無いとわかりづらいので、建築を長くやっている人でも『この塗装とタイルは色相がずれていますよ』と言っても通じないことが多くあります。
塗装の職人さんには伝わりますが、塗料メーカーの営業の人には理解できない人が多かったりします。

例えば黄赤系のオフホワイトは、塗装色の中では最も一般的ですから、色調合に慣れた人(=メーカーの工場の方や職人)であれば色相を見誤る心配が少ない色です。再現しやすい色を把握しておく、ということも重要な要素です。

指定した色を再現してもらう際、再現する人の目・手による誤差を、どれだけ小さく出来るか。これは以前グラフィックデザイナーの原研哉さんからもお話を伺ったことがありますが、どの分野にもある程度共通する考え方だと思います。

具体の方法としては、ズバリを想定した場合、そのズバリ色に対して
『色相(色あい)は赤の方向、黄の方向(あるいは緑の方向、紫の方向等)、どちら寄りが好ましいか』
『明度(明るさ)の上限・下限は』
『彩度(鮮やかさ)の上限・下限は』

を指示することで、『ここまでだったらズレは許容出来る=ストライクゾーン』を設定してあげる、というやり方です。

例えば“明るいベージュ”を選定する際、選ぶ側にも見る側にも、ものすごく幅があるはずです。
その状況下で、自身が理想とする色は確かにあるのですが、それは何というか、物体の色そのもののことだけではなくて、その物体があることでつくりだされる状態を、どうすれば構築出来るか、が重要です。

形や質感との合性とか、その場の陰影の具合とか。色の見え方はその場の状況に左右されますから、(色の)『転び方』さえ把握していれば、ある程度の幅の中で決めて全然問題ないと思っています。
むしろ選定の際『絶対にこの色でなければならない』ことなど、ほぼ存在しないと考えることも出来ます(生産・商品管理の色再現は別として)。

許容範囲を決めるところまでは相当気を使いますが、実際の色合わせは(ズレが大きすぎなければ)許容してしまった方が良い、くらいに思っています。

…とはいえ、一発勝負の色合わせはひとえに職人さんの手と目にかかっているので、毎回緊張します。そうした経験も含めて、自分の中にデータを客観的に数値化して蓄積していくことがとても大切だと考えています。他での成功が、ここで通用するかはもちろんわかりませんが、経験の良いところは上限・加減の“見当”がつくようになることではないでしょうか。

一発勝負ならば賭けに出る、という方法ももちろんあるでしょう。あるいは、常にニュートラルな白にしておけば間違いない、という考え方もあるかも知れません。ですが、塗装の良い点はかなり微細な色調整が可能だという所にありますから、その利点を生かして徐々に段階を踏んでいくという訓練も悪くないのでは、と思っています。

ちなみに、今回は1色を選ぶ際のポイントについて書いていますが、複数色を選ぶ際はそれぞれの差異の設定の仕方にまた別の注意が必要です。それについては、また次回。

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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂