2013年2月18日月曜日

建築・土木設計を学ぶ学生のための色彩学③-失敗がない色の選び方(多色編)


失敗がない色の選び方(単色編)に続いては、多色を用いる場合の基本について、解説します。

色を使うという一文については、実に様々な意味や解釈があるものだと感じます。中でも、色を使う=カラフルになる、色をたくさん使う=ごちゃごちゃになる、という二点に対する懸念が最も大きいようです。
そもそも、『色を使わなければならない状況なのか』という検証が先にあるべきで、使う必要がある際にも『どのような使い方が適切か』という段階的な検討が不可欠であると考えています。

ところが、なぜか色は“つける”という表現に表れているように、まるで後から塗り絵のように鮮やかな色を着彩することである、と捉えられている節があります。この色を色彩、に置き換えてみると、違和感の大きさが伝わるのではないでしょうか。色彩はつける、よりも施すや展開する、の方がしっくりくるような気がします。更にいうと、『対象物と何らかの調和が形成できるよう検討された数色を組み合わせ、配置する』ことが、色彩を展開することの意味や意義なのではないか、と思っているのですが、如何でしょう?

それでは複数色を用いることが、イコールカラフルさではないこと、また沢山の色を使って一体感や連続性を表現する方法を紹介します。その名を、『色相調和型(しきそうちょうわがた)』の配色といいます。

環境色彩デザインにおいては、いくつかの基本的な調和の型(タイプ)があります。どのような配色でも(対比の強い補色同士等)調和を見出す二次元のグラフィックや絵画等とは異なり、三次元空間では対象物が持つ規模や用途、また建築物が持っている慣例色(素材)等との関係から、特殊な配色は調和を感じにくく、調和感よりも違和感を増大させる要因となりがちです。

この色相調和というのは配色の中でも最も『調和した印象』を感じやすい配色です。その大きな要因は、どのような色相であれ、純色(原色)と白・黒の3色を混合するカラーバリエーションであり、明度・彩度の変化が既に調和した状態である、という点にあります。濃淡が生み出す色彩のグラデーション=階調は音楽でも同様、なめらかさや連続的な変化を表しますから、色相が統一されているという条件が階調の変化を支える軸となり全体のまとまりを保持している、ということが言えると思います。

また濃淡の変化というのは、私達が長年見慣れてきた『身の回りの状態の変化』に酷似しています。夕暮れ時、橙色が闇夜に変わる様子、切り出した木材が風化し色味を失っていく様子、落葉樹が緑から黄、赤へ変化していく様子…。私達の暮らしは徐々に色彩が移り変わること、そしてその変化の幅が大変微細であるという状態の変化と共にあります。

色相調和型の配色を2例、提示します。

色相調和型の配色・その1
上段は低~高明度、低・中彩度色を使って構成したものです。
この段階では、こうした配色をカラフル、と感じる方も多いかも知れません。

色相調和型の配色・その2
次に、全体の彩度を下げ、低~高明度、低彩度色のみで構成したものです。いずれも全て色相は10YR(イエローレッド)系であり、使っている色数は同じです。それぞれトーン(明度と彩度を併せた概念・色の強さ)に変化を付けることによって、複数色を使ってもまとまりを保持したり穏やかで落ち着きのある印象をつくったりすることが可能である、と考えています。

 私はいくつかの自治体で景観アドバイザーという職務に携わっており、月に12度程度の割合で様々な相談を受けます。景観に関する協議のため、建築設計者が図面に素材や色彩(日塗工の色番号やマンセル値)を記載した図面が提出されますが、複数色を使う計画案の場合、この色相調和が図られている例には殆ど出会ったことがありません。

基調色がYR(イエローレッド)系なのに、低層部がR(レッド)系だったり、Y(イエロー)系だったり。近似の色相も類似色相調和、という型の一つですが、使用する部位や面積が様々な場合、色相の類似のまとまりは読みとりにくくなります。差異による変化を恐れるあまり、色相・明度・彩度に殆ど差異のない色群を無意味に使い分ける例も数多く見てきました。使い分けたいけれど、どのくらいの差異が適切かわからない、差をつけ過ぎてまとまりが無くなることを恐れているように見受けられます。

特に外装の場合は形態に合わせて適度な変化をつける=分節化が必要な場合があります。また、上記の例のように複数の建物が混在する際、規模が大きくなればなるほど、全て白で、というわけには行かなくなるでしょう(…絶対にあり得ない、とは言い切れませんが)。

そこで是非検討して頂きたいのが、『色相調和型』の配色です。軸となる色相を決め(暖色でも寒色でも)、その純色に黒と白を加えた濃淡のバリエーションによる配色は、最低限の調和を形成するために最も有効な配色手法だと言えると思います。

最後に、色相調和型の配色に関するまとめです。

●色群の段階で既に調和感が形成されているため、多色を展開してもまとまりが保持されやすい。
●対象物の規模や用途・目的に合わせて、色のトーン(明度・彩度)を変えながら、全体の『雰囲気』をつくることが可能。
●よって、建築・工作物単体の他、それらが複数集積した群に対しても展開がしやすい。

今後他の色相ではどのようなイメージなるか、も紹介していきたいと思います。

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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂