2013年7月15日月曜日

沈む色、浮き出す色

先週、浙江省の温州市というところへ現地調査へ行ってきました。最高気温39度という日もありちょっとへばりましたが、終日快晴で写真の撮りがいがありました。

今回の計画は島の一部を埋め立たててつくる新しい街区で、2030年までの都市計画に基づき、色と素材に関する基準をつくるというものです。その計画や結果についてもおいおいご紹介して行きたいと思います。

調査初日に計画地の近くにある島に渡りました。小さな港がいくつかあり、古い集落が山の斜面に沿って建ち並ぶ景色がとても魅力的だと感じました。

築100年以上の、港の集落。
外壁や擁壁に使用されているのは近くの山で採れる花崗岩。
この屋根並みに目を奪われながら歩いていると、瓦の現物が積んであるのが目に入りました。とても薄い、おせんべいのような瓦です。(住民の方がいたら一枚譲って頂きたかったのですが、昼食時のせいか人影がなく断念しました。)

僅かに黄味のある灰色。
瓦を抑える様に、石が並べられています。
瓦単体で見ると殆ど色味の無い灰色ですが、遠景で見ると壁と同じような暖色系の色調に見えます。

モルタルで接着しているよう。とすると、石の役割は…? 
見たところとても素朴な焼き物のようなので、少し時間がたつと素地の土色が表れてくるのだと思いますが、それにしても距離でここまで見え方が変わるかなと思い、色々な場所から屋根を眺めて回りました。

手前と奥では明らかに見え方が違います。
暖色系と寒色系を比べたとき、暖色系の色調の方が『手前に飛び出して見える』進出色です。これは単色で見る際に規定されるわけではなく、他の色(色相)と並置してみた際に個の色の特性、が対比によって際立つという色彩の心理的現象です。

距離を置くほど、ニュートラルな瓦の色は沈み、規則正しく配置された花崗岩の色が際立って見えている、ということになります。外壁や擁壁に使用されている色鮮やかな花崗岩の色は、ニュートラルな色合いの目地によって同化現象が起こり、距離を置く屋根色とあまり差がなく穏やかに見えています。

調査の際は必ず眺望のよい場所(高層ビルの屋上や展望台など)に案内してもらって、そこから町を眺める、ということを行いますが、今回のように斜面地の集落を歩いて回ると、遠景・中景・近景と素材や色彩の見え方が変化して行く様子、を細かく観察することができます。

素材、色、それぞれの特性や性格。こうして距離や時間の変化の中で捉えて行くと、改めてマテリアルのテクスチャーというものが景色に与える影響の大きさを感じます。

この写真などは西洋のまちのどこかのようです。
花崗岩は、とても色鮮やか。
花崗岩や素朴な瓦など、この土地で採集された材料や地域の風土にあった工法でつくられてきた集落。今回、現地のクライアントに調査を終えての印象や計画についての意見などの報告を行いましたが、その際にこうした時間がつくってきた景色はお金では買えないものであり、この現役の集落を保存・活用がとても重要であることや地域の素材、花崗岩を新しいまちの計画にも取り入れて行きましょう、という提案を行ってきました。

海を埋め立ててつくる街並みは、白紙に理想郷を描くような壮大な計画ですが、こうした地域の小さな景色にもゆるぎない価値がある、ということ。担当の方がメモを取り、大きくうなずき同意を示して下さったことを糧に、新しい創造にふさわしい地域の素材の使い方を検討して行きたいと思います。

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自己紹介

自分の写真
色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂