2015年2月16日月曜日

公共空間における「焦げ茶」以外の可能性について

少し趣向を変えて、公共空間における景観配慮色以外の可能性について、考えてみたいと思います。
下の写真はジョグジャカルタ、二段目の写真は世田谷の住宅地で撮影したものです。いずれもやや鮮やかなGY(グリーンイエロー)系が使用されています。ジョグジャカルタの写真は移動中の車の中から撮ったものです。外壁と玄関先にあるプランターの色相(色合い)が合っている上、丁度補色の関係にある鮮やかなマゼンタの花の色が印象的に見えました。

ジョグジャカルタやジャカルタで多く見かける緑系の色調は信仰の象徴であり、聖なる色・繁栄の象徴として扱われています。

一方、都内で多く見かけるGY系の防護柵は、「安全」のイメージから緑系が使用されていると聞きます。背景の集合住宅の外装と比べてみると、いささか唐突な配色であることが否めない、と感じます。色そのものの善し悪しではなく、背景との関係性においてということでの判断です。

ジョグジャカルタ 2013
世田谷区内 2010
下の写真はジャカルタ市内です。民家の駐車場のフェンス、何とも鮮やかで人目を惹きます。背景にガラスのビルが見えますが、周辺は開発が進み、高層建築物が林立する街並みが広がっています。そうした景色とこのような下町の対比は、日本の月島界隈等と少し似た感じがします。

ビビッドカラーを用いたリズミカルな配色 ジャカルタ・2013
街並みの都市化・近代化に大きく影響しているのは高層建築物の存在だと感じますが、その影響が周辺にも波及している、という例を見かけました。
下の写真は運河沿いの古い街並みを観光客向けの商業地へと整備しているエリアなのですが、ちょうど改修前と改修後の様子を比較できる状態でした。

左側が改装後 ジャカルタ・2014
左側の、明るいニュートラル(低彩度色)系の配色の方が改修後の姿です。意匠を生かしつつ、シンプルで洗練された印象に生まれ変わっています。でも、元の配色は素焼の屋根瓦との色相対比が明確で、これも中々に魅力的だと感じました。

少し郊外にある高級住宅地 ジャカルタ・2014
外装色が穏やかに・ニュートラルになる傾向は人々の意識がそう働く、という歴史もあります。「知識人は白や黒を好むようになる…」という言説がゲーテの色彩論の中に見られますが、豊かになり様々な色・材料を選べるようになればなるほど「色から逃れる」傾向があるというものです。

高級住宅街ではカラフルな門扉や柵等は見られず、白や濃灰、せいぜいダークグリーン程度でまとまっていました。洋の東西を問わず、近代化の影響というのはまちなみの色調に大きな影響をもたらすのだと思います。

パリ市内 @AYA YODA 2014
パリ市内 @AYA YODA 2014
スタッフが昨年パリを訪問し、たくさんの写真を撮って来てくれました。視点が違って面白い、と思う部分と、やはり「色」を見ているなあと共感する部分と両方あって、とても参考になります。パリ市内のストリートファニチャーは基本的には「地」として機能しています。形状やデザインは様々ですが、ほとんどが低明度・低彩度色で色味を感じるものは公園のベンチなど、ごくわずかな存在です。

そうして地が整えられていることで、時折出現する鮮やかな色彩がハッとする程に印象的に感じられます。

パリ市内 @AYA YODA 2014
環境の中で「何が主役になるべきか」という議論から誕生したのが景観配慮色です。その理念が基本にあるので「低明度・低彩度色」であることが重要なのであり、規模や面積に応じて「中明度色まではOK」という「ストライクゾーン」の中で検討することが大きな意味を持つ、と考えています。

そうして整えられた環境の中で始めて「色が映える」のではないでしょうか。パリ市内の1本ずつ配色やデザインが異なるポール(車留め)はアーティストの作品のようです。全体の中で1~2割くらい、こういう楽しさや変化があるのはとても豊かなことだと感じます。

最近身近にあまりにも「ダークブラウン嫌い」の方が多いのですが、そのことに警笛を鳴らすばかりではなく、効果的な・より具体的な選択肢を提示することも試みたいと考えるようになりました。
例えば他色相の場合、どの色であれば環境と馴染みやすく、景観配慮色とは異なる雰囲気をつくることができるのか、という問いに対しての回答です。

もちろん、規模や形状・設置される環境との特性…等々、加味しなければならない点は数多くありありますが、「他と異なる雰囲気にしたい」という要望に対しての「ストライクゾーン」としてはお示しができるのではないかと考えています。

●屋外空間の防護柵等にふさわしい(と考える)寒色系の色調
H35-30D(5GY 3.0/2.0)
H45-40B(5G 4.0/1.0)
H45-30B(5G 3.0/1.0)
H55-40B(5BG 4.0/1.0)
H55-30B(5BG 3.0/1.0)
H65-30B(5B 3.0/1.0)
H65-40B(5B 4.0/1.0) …等。(※明度4以下、彩度1以下が基本)

汎用性の高い日本塗料工業会の色見本帳から選定してみました。彩度1程度の色は色見本帳で見ると殆どグレイに見えますし、低明度色になるほど黒に近づいて行きます。ところが、実際の見え方は「背景・周辺にあるモノとの関係性」で決まるので、ごく低彩度色でも暖色系中心の街並みの中ではしっかりと色味を感じさせることができます。

国(国土交通省)が選定し、全国的に展開されている推奨色としてはダークブラウン・ダークグレイ・グレーベージュの3色に絞られていますが、この3色は山間部でも都市部でも馴染みやすい色調として様々な調査や検証の末に選定されたものです。

他要素との関係性をつくりやすく(単独の善し悪しではなく)、地としての機能をきちんと果たすことができれば、「低明度・低彩度」という範囲で選定の可能性を拡げて行くことが可能なのではないでしょうか。

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自己紹介

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色彩計画家/環境色彩デザイン/いろでまちをつなぐ/MATECO代表/色彩の現象性/まちあるき/ART/武蔵野美術大学・静岡文化芸術大学非常勤講師/港区・山梨県・八王子市景観アドバイザー/10YRCLUB/箱好き/土のコレクション/舟越桂